鉱物とハーブ けもの道

鉱物標本の拡大写真とハーブティーブレンドの実験。ときどきホロスコープや読書をからめて。

『ウォーターランド』ブレンド

「いったい歴史に何の意味があるんですか」

そして歴史教師の妻はなぜ赤ん坊を誘拐したのか。

イギリスの沼沢地に根を下ろしたふたつの家族と、Genius Lociの物語。

 

『ウォーターランド』グレアム・スウィフト/真野泰 訳 新潮社

さまざまな時間と人が織り交ぜられた小説をお茶にしてみます。

 

まず水辺の土地の象徴として柳、ホワイトウィロウ。

弛みない干拓の営みのように歴史を語りつづける主人公の歴史教師トム・クリックは土星のイメージ、かつ痩せた湿地の出身なのでホーステール(スギナ)。

カトリックの女学校出身で、後年に赤ん坊のイメージに取り憑かれる教師の妻メアリはミルクシスル(マリアアザミ)。

冷戦の時代、第三次世界大戦の悪夢に怯えながら「歴史に何の意味があるのか」と最初の問いを発する少年は水星、不眠に効くというけれども大変つよい匂いのするバレリアン

堕胎の技術を持つ「魔女」マーサには、民間薬と魔法のイメージが重なるエルダーフラワー。

そして、土地の繁栄の要となるのはビール。なかでも、ジョージ5世の即位を祝う「戴冠記念エール」が町中に引き起こした混乱と、花火のような大火災は圧巻です。思い切ってビールをひとたらしして仕上げます。

 

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ホワイトウィロウ 1/4

ホーステール 1/2

ミルクシスル 1/2

バレリアン 1/4

エルダーフラワー 1/2

 

割合は、物語に沿うよりも各ハーブの強さを考慮しました。

お湯がわくのを待つ間に、ミルクシスルの種を摺鉢で少しつぶします(硬いし滑る)。

 

この比率でもバレリアンの苦い香りが強く香ってきますが、「歴史に何の意味があるんですか」という問いがこの物語の根底にあることを思えば相応しいと言えるでしょう。

 

少し濃い目にして、ビールを入れる前に味見。強い香りの割に、味は苦味もなく淡々としています。

このままさらさらと飲んでしまいたくなるけれど、あえてビールを一口注いで……

 

アルコールと炭酸の苦味で、がらっと味が変わります。大人しい田舎町の人々が「戴冠記念エール」で狂乱に陥るさまを思い浮かべても良いかもしれません。麦の香りを期待したのですが、むしろホップの香りが立って、百草丸のようなバレリアンと意外によく合っています。

そうか、ホップもハーブのようなものかもしれない。

麦を強調するならウイスキーでもいいかもしれませんが、アトキンソンビールとともにあった沼沢地(フェンズ)を思って、このテーマではこれでよしとしましょう。

 

主人公たちに選んだハーブが香りの弱いものだったので、霞んでしまったのは反省点。結果的にバレリアンとホップのひねくれた香りは湿地の印象に合うような気がしますが、これから物語ブレンドをいろいろ試す中では考えていきたいところです。